GISと空間解析

[1] より,GISの原理と構造,データ,機能に関して覚え書き.<原理と構造>
ベクターとラスター
ふたつのデータ形式がある.ベクター形式の場合,データは座標値として記録される.ラスター形式の場合,データはピクセルの集合として記録される.
ベクター形式には,正確に形状を記録できる,データベースとの連携が容易,解像度を上げてもデータ量がそれほど増加しない,などの利点がある.ラスター形式には,空間解析が容易,境界があいまいな対象も扱える,スキャナを用いたデジタル地図の作成が簡単にできる,などの利点がある.<データ>
■DEM (Digital Evaluation Model)
ラスター形式のデータで,ピクセルのひとつひとつに標高値が与えられている.ピクセルに含まれる等高線の代表値を採用.利点は,属性値が規則的に配置しているため,地形量が比較的簡単に算出できる点.メッシュ.


■TIN (Triangulated Irregular Network)
ベクター形式のデータで,連続的で重複しない三角形を内挿して地形や標高を表現する.利点は,形質情報を小さな記憶容量でみつに保存できる点.その反面,RSデータやメッシュデータとの直接的な対応が取りづらく,垂直な面の表現にも限界がある.


GPS (Global Positioning System) データ
地球を周回する衛星からの電波を受信して緯度・経度や対象間の相対位置などを測定するシステム.入力データを簡単にマッピングでき,調査などによく利用される.


■RS (Remote Sensing) データ [2]
対象を遠隔から測定する手段.狭義には,人工衛星や航空機などから地球表面付近を観測する技術を指すことが多い.RSデータを提供する衛星には,LANDSAT (米),SPOT (仏),IKONOS (米) などがある.光学センサで地球表面に反射した太陽光を波長帯別に観測して,数値データに変化して出力している.
データはラスター形式で,バンドの組み合わせを見ることで「植物の活性」や「土壌の含水率」などのデータを得られる.過去のデータをとることはできないが,対象地域の現在の状況を参照データとして得ることは可能.砂漠地帯では,地表下の水脈を抽出し,これと遺跡分布の相関を探るなどの応用例もある.流氷分布,遺跡立地,海水温や塩分濃度などのデータも得られるため,考古学への応用が期待できる.


■既存の地図データ
考古・文化財科学で作成してきた紙媒体による図類を,「座標系で管理するデジタル地図」として扱う.入力方法は,デジタイズ,スキャニング,テキスト入力で,どれを選ぶかは場合によりけり.「"Reading (読むこと)"から"Consaltation (参照すること)"への意識のシフトが重要」.<機能>
■地図の表示
属性情報による検索,3次元表示,距離の計測 (バッファリング: オブジェクトから一定の距離を示す面データ),面積の計算,などが可能.


■レイヤー構造とオーバーレイ処理
座標系の情報をレイヤーとして管理できる.それぞれのレイヤーを重ねあわせて新しいレイヤーを作成する (数値演算と論理演算のふたつの方法がある) オーバーレイ処理が可能.レイヤーや属性値に着いて統計量を算出することもできる.


■属性値の再分類
分類基準を再定義して,既存のレイヤーからバイナリデータなどを抽出できる.教師つきデータを用いて,機械学習的に分類基準を構築していくことも可能.


■地形量の計算
ピクセル相互間の関係や頂点の座標値の差から,勾配や傾斜方向などの地形量が計算できる.アルゴリズムはソフトウェアにより異なる可能性があるが,一般に,3×3の正方形ピクセルについて,中央に対する周囲の標高を見て,これを移動しながら頂や谷や傾きの方向などを判断していく.
傾斜方向と太陽の高度や位置をあわせて,陰影 (Hill-shading) を表す図を作成することもできる.分水界 (Watershed) を抽出するなども可能.ヒストグラムで地形量を抽出すれば,その地域の地形量を定量的に比較できる.


■空間をゆがめる
座標系全体や任意の座標に係数をかけて幾何学的にゆがめる方法と,パラメータを加えて距離測定をユークリッド距離から転換する方法とがある.
後者の代表的なものがコスト・時間距離分析.カーナビでは,法定速度や渋滞状況の属性値を付加したレイヤーをオーバーレイして,移動負荷値が与えられた地図が作成される.考古学では,地形や傾斜を考慮して,遺跡からの徒歩圏内を同心円より実際に即したかたちで表すモデルがある.


■ボロノイ分割
距離空間上の任意の位置に配置された複数個の点に対して、同一距離空間上の他の点がどの母点に近いかによる領域分けを適用する方法.分割された領域に含まれる個々の点と,その領域内の母点への距離は,ほかのどの領域の母点への距離よりも小さい値になる.一種のテリトリー分析や規則性の発見に用いられる.また,コスト・時間距離を考慮した加重つきボロノイ分割を行なうことで,分布がより適切になる可能性がある.


■空間補完技術 (内挿)
観測データや属性値のあるオブジェクトから,データのない場所の値を推定する方法.
考古学や文化財科学で扱う資料は,そのすべてが分布という空間的な様相を呈し,しかも密度や出土量の違いという空間偏在性をもっている.こうした分布に対し,ある単位で線引きをしてきたが,問題は,その線引きの確からしさを比較検証する手だてがないこと.


■可視・不可視関係
三次元的な地形の把握により,眺望分析・可視域分析 (Viewshed analysis) が可能.物理的な空間と属性情報のあいだに人間の存在を介在させて,新しい属性情報を作成するような処理もできるように.

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参考

1 津村宏臣, 2006, "GISと空間解析入門."『実践 考古学GIS』, 宇野隆夫 編著, NTT出版, 東京.
2 リモートセンシング (Wikipedia) http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%83%A2%E3%83%BC%E3%83%88%E3%82%BB%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%82%B0
3 ボロノイ図 (Wikipedia) http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9C%E3%83%AD%E3%83%8E%E3%82%A4%E5%9B%B3