集団遺伝学 (遺伝的変異と自然選択)

集団遺伝学の基礎について,授業の復習をメインにまとめてみます.
「適応進化遺伝学」テキストを参考にしています.
自分の学習用ですので,間違いなどあるかもしれません.


遺伝的変異

用語

遺伝的変異 (genetic variation): 集団内で遺伝子に多様性があること
多型 (polymorphism): 遺伝的変異をもつ状態
遺伝子頻度 (allele frequency): 集団中の対立遺伝子 (allele) の頻度
ヘテロ接合 (heterozygote): 2倍体生物の2つのalleleが異なる場合
遺伝子型 (genotype): 2つのalleleの組み合わせ

遺伝的多様性を記述する尺度

alleleの種類数 (number of alleles)
ヘテロ接合度 (heterozygosity): 狭義では,ヘテロ接合個体の割合.広義では,集団から無作為に選んだ2つの遺伝子が異なる種類のalleleである確率 (これを遺伝子多様度 (gene dyversity) ともいう).

Hardy-Weinberg principle

要点は,遺伝子頻度 (p, q) を与えれば,遺伝子型頻度の期待値 (p^2, 2pq, q^2) を計算できる,というところ.期待値と観察値のずれを,χ二乗検定やフィッシャーの直接確率検定で評価できる.
HWEは事実上1世代の遺伝子型頻度の (短い期間の) 変動を問題にしているため,実際には多くの集団でHWEが観察される.しかし,HWE成立条件のうち分集団構造だけは例外.集団構造の遺伝的分化が何世代にもわたって蓄積した複数分集団をひとつの交配集団とみなすと,任意交配からの大きな逸脱となる.このため,HWEは対象集団が均一な任意交配の集団化どうかの指標として使われる意味あいが強い.
分集団化のうち,生殖隔離がおこっていると,全ゲノムで遺伝子頻度が分化する.その一方,特定形質に対して異なる選択がはたらいていた場合は,特定の遺伝子型頻度のみが分化する.


自然選択による遺伝子頻度の変動

遺伝子淘汰 (genic selection)

野生型allele Aに対し,突然変異により生じたalleleをaとおく.遺伝子型AA, Aa, aaの淘汰値を,1, 1+s, 1+2sとして,世代tでの遺伝子aおよびAの頻度をそれぞれq_t, p_tとして,q_tの時間変化を計算してみると,
\Delta q_t = q_{t+1} - q_t = s p_t q_t
となる (sは非常に小さいので,s^2 = 0と近似できる).
これを微分方程式\frac{d q_t}{dt} = s p_t q_tにして解くと,
ln(\frac{q_t}{p_t}) = ln(\frac{q_0}{p_0}) + st
となり,
q_t = \frac{q_0}{q_0 + p_0 e^{-st}}
が得られる.
集団サイズが無限大であれば,変異型の比が時間とともに,指数的に増加してくことがわかる (allele頻度の対数が,時間に比例して増えていく).
これはつまり,有利な突然変異が現れれば,比較的短時間で既存遺伝子を凌駕し得ることを意味している.

超優勢選択 (overdominant selection)

ヘテロの状態が最高の適応度をもつ場合,遺伝子頻度は平衡に達する.遺伝子型AA, Aa, aaの淘汰値を1, 1+s, 1+t ( s > t \ge 0) として,Aの頻度をpaの頻度をqとおくと,
\Delta q = \frac{pq(tq + s - 2sq)}{1 + 2spq + tq^2}
となる.この式を微分方程式に直して解くと,qの時間変化が得られる.
遺伝的浮動の影響を無視すれば,初期頻度に関わらず一定時間の後に,平衡に達する.平衡に達したときのaの頻度は\Delta q = 0で与えられ,q = \frac{s}{2s - t}となる.